「幸福」は照れくさい言葉です。テレビドラマでは連呼されても、私たちの現実生活ではそれほど口にされませんし、ましてや学問の世界ではなかなか正面から扱われてこなかった。しかし、このところ――とりわけ2011年3月以降――メディア等でしきりに取り上げられる「不安」「リスク」「危機管理」「希望」といった概念をつきつめていくと、その根底には私たちが「幸福」なる得体のしれない感覚とどのように付き合うかという問題があることがわかってきます。最近、「幸福」そのものを題材とした研究が増えつつあるのもそのためかもしれません。
この授業では文系理系の垣根を越え、「幸福」という概念がさまざまな知のフィールドでどのような意味を持つかについて――ときには批判的な視点をまじえながら――考察します。この講義を通して、ふだん接する機会のあまりない他の分野で、どのようなものの考え方がされているかを体験する機会にもなるかと思います。
第1回 10月1日 玄田有史 (東京大学社会科学研究所 労働経済学)
「幸福と希望の曖昧な世界」
加藤陽子 (東京大学大学院人文社会系研究科 日本史学)
「対談でつなぐ、去年と今年、あるいは、大災害と幸福の距離」
第一回は「初回スペシャル拡大版」(午後4時40分~8時10分、
ただし6時20分以降の参加は任意)として玄田先生と加藤先生の
ダブル講義を行います。冒頭にガイダンスを行いますので履修
希望者は必ず出席してください。
第2回 10月15日 菅野覚明 (東京大学大学院人文社会系研究科 倫理学)
「極楽浄土はどこにある?」
第3回 10月22日 長谷部恭男 (東京大学大学院法学政治学研究科 憲法学)
「憲法学における幸福」
第4回 10月29日 唐沢かおり (東京大学大学院人文社会系研究科 社会心理学)
「心の仕組みと感情の機能」
第5回 11月5日 塚谷裕一 (東京大学大学院理学系研究科 植物学)
「植物の幸福。」
第6回 11月12日 林良博 (東京農業大学農学部バイオセラピー学科 動物学)
「動物たちの「しあわせ」と人間中心主義の狭間で」
第7回 11月19日 武田晴人 (東京大学大学院経済学研究科 経済史)
「経済学のふしあわせな生い立ち」
第8回 11月26日 大月敏雄 (東京大学大学院工学系研究科 建築学)
「幸せに住むということはどういうことか?」
第9回 12月3日 トム・ガリー (東京大学大学院総合文化研究科 辞書学/言語教育)
「幸福の言葉、幸福な言葉、幸福という言葉」
第10回 12月10日 柴田元幸 (東京大学大学院人文社会系研究科 アメリカ文学)
「幸福とアメリカ文学」
第11回 1月7日 笠井清登 (東京大学大学院医学系研究科 精神医学)
「精神医学とは何か:「脳と精神と生活の医学」による
個人の精神的幸福、そして社会の豊かさへの貢献」
第12回 1月21日 大野博人 (朝日新聞 論説主幹)
「なぜ「人の不幸」を伝えるのか」
第13回 1月28日 原研哉 (武蔵野美術大学基礎デザイン学科 デザイナー)
「HOUSE VISION 産業の未来を可視化する」