第13回 

 原研哉 (武蔵野美術大学基礎デザイン学科 デザイナー)

「HOUSE VISION 産業の未来を可視化する」

 

日本は今、大きな曲がり角にさしかかっている。戦後六十数年、工業製品を作り続けてきた産業も、アジア全域に工業生産が拡大していく中で、大きな発想の転換が求められている。日本列島を工場化し、港湾も道路も鉄道も、高度な工業社会を目指してきたそのヴィジョンの賞味期限が切れようとしているのだ。エネルギーも、移動も、通信も、生産のかたちも、家族構成も、人口も、年齢構成も、幸せのかたちも大きく変わろうとしている。そういう時代に、デザインが果たす役割は、社会や産業のその次の可能性をヴィジュアライズしていくことではないか。具体的には「家」「観光」「ホスピタリティ」といった観点から、新しい産業の可能性を掘り起こしてみたいと考えている。この講座においては、ここ数年、取り組んできた「HOUSE VISION」についてお話ししたい。住宅産業ということではない。あらゆる産業の交差点として「家」を見るということである。 

 

 

 

参考文献

・原研哉、HOUSE VISION実行委員会『新しい常識で家を作ろう』平凡社、2012年7月刊行予定。
・原研哉『日本のデザイン:美意識がつくる未来』岩波新書、2011年。
・原研哉『デザインのデザイン』岩波書店、2003年。

 

 

 

講義後情報コーナー

履修者のレスポンス抜粋

◇文学部行動文化学科 4年

「生きる事の質の向上」という言葉がとても印象に残りました。幸福に多く関係するのは、量的な満足感よりも質的な満足感なのであろうということを改めて感じ、原さんの取り組んでいらっしゃることはまさに人々の幸福感を高めて行くことに直結するようなプロジェクトだと思いました。そして、人が生活知や健康知を高めて幸福と感じられるような環境を想像して行くことは、様々な日本の産業が交差する大きな可能性を秘めたものであり、日本の未来にさえも希望と幸福をもたらしうるものなのだと強く感じました。悲観的に見られがちな日本の未来は、私達が固有にもっている繊細さ、緻密さ、丁寧さ、簡潔さと蓄積された技術をかけあわせて、まだ何もない所に新たな価値をクリエイトしていくことに大きな可能性をもっているのだと気付かされました。

 

◇法学部第二類 3年

「自分で住宅を変容する」ことによる幸福というのは第8回の幸福と住まいについての講義でも触れられていました。自分の生活にマッチした住居に住む幸福、住宅に自分の好きなように働きかける幸福の二種類の幸福の形を生み出す住宅リテラシーは人間の幸福の増大のキーとなる概念ではないかと思います。

 

◇文学部思想文化学科哲学専修課程 3年

原氏は日本の文化が長い間培ってきた、繊細さや緻密さなどの美意識を強調し、この日本的な感覚とハイテクノロジーをかけ合わせることで新しい価値が生まれるのではないかと説く。「家」のデザインというテーマは今回の講義のメインとして扱われたが、これもまた、このような原氏の思想の一つの結実としてあるのではないかと私は感じた。(中略)デザインという営みがどのように本講義のテーマである「幸福」と結びつくのか、興味深く講義をきいていたが、その一つのキーワードは、この営為の本質をなす「価値の創造・発見」ということなのではないかと私は感じた。