この回では「国境」について考えます。といっても、現在進行中の問題を直接あつかって政治的提言をしようというわけではありません。迂遠に思えるかもしれませんが、この問題を歴史的に考えてみようと思います。
かつて、海は誰のものだったのでしょう? そもそも、海を所有しようなどという発想はあったのでしょうか? そのことを、私が研究対象としている中国を例にとりあげてみます。
(ですから、中国を扱うのは決して時事的な意味ではありません。過度な期待をいだかないように、念のため。)
・羽田正編『シリーズ東アジア海域に漕ぎだす1 海から見た歴史』東大出版会、2013年。
・黒田日出男『龍の棲む日本』岩波新書、2003年。
・東アジア地域間交流研究会編『から船往来』中国書店、2009年。
・小島毅『海からみた歴史と伝統』勉誠出版、2006年。
・羽田正編『海から見た歴史』のプロローグ「海から見た歴史へのいざない」1-37頁。
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◇新領域創成科学研究科社会文化環境学専攻 修士2年
改めて主権国家体制の必要性を問われてみて、自分の世界観があまりにも無意識のうちに国家の枠に捕らわれていたことに気付いた。これは一つの固定観念であって、必ずしも主権国家ありきの世界観に捕らわれる必要はないと思う。ただ、国家の枠組みがない世界がもし成立するのであれば、「日本人」であることを自分のアイデンティティの重要な要素の一つとしてきたこれまでの「自分」はどうなるのか、国家の代わりに何を自分の帰属の単位とすれば良いのか、少なからず不安と戸惑いを感じた。 自分の中の固定観念に気付き、物事を柔軟に考えるためには、一つの手段として物事のルーツを辿る必要がある。物事のルーツを辿ることは、歴史を理解することである。他者との「共通の歴史認識はない」(小島先生)なかで、一つの固定化された歴史認識を共有するのでなく、多様な歴史認識を許容すること(多様性の受容)によって、現実的な対話が可能になるように思う。
◇教育学研究科大学経営・政策コース 修士2年
「正しい歴史認識」というのは人によって違うが、歴史の事実を正しく知ることが非常に大切であることを痛感させられた。今回は私にとって歴史を学習することの効用を感じさせてくれた講義だったと思う。現在の東アジア海域では、尖閣諸島・南沙諸島・防空識別圏など、領土を巡ってきな臭い動きが起きている。各国はそれぞれの歴史認識で議論するため議論がかみ合わない。講義では東アジアの国境はかつてはあまり認識されず、「○国人」という認識は新しいものということであった。ウェストファリア体制は国境を定めた西欧的主権国家体制であるが、そうではない考え方も歴史を紐解けばあることがわかる、案外そういうところに現代の課題を解決する糸口があるのかも知れない。『現代に活かす歴史』という考え方を学んだ回だった。
◇人文社会系研究科文化資源学研究専攻文化経営専門分野 修士1年
戦争もなく革命なども起きない現代の日本では「国境」はまるで不動であるかのように考えてしまいます。海という「国境」が曖昧になってしまう場所だからこそ、近隣国が島周辺にある資源を巡って領有権を争っています。かつては面で国境を捉え、海を分けること はなかったと聞きました(私の解釈は合っているのか不安ですが)。今の世界においてその捉え方は、争いの引き金になってしまうと思いますが、その緩い分け方ができる世界は、少しだけ平和だったかもしれないと感じました。また、「文化」の話をするときにもよく言われることですが、「国」を基準とする以前に「民族」についてを考えることも必要ではないかと考えました。
◇文学部思想文化学科倫理学専攻 学部3年
現在、大きく取り上げられている尖閣問題について考える大きな手掛かりになったように思う。「固有の領土」と主張するために歴史を遡って議論するわけであるが、「固有の領土」という概念自体が近代に作られたものであるならば、近代以前の歴史を論拠にして「固有の領土」を主張することはナンセンスということになろう。さて、この領土問題を解決するために、まず、ウェストファリア条約以降に作られた線で囲まれた国民国家の概念を見直す必要があるという話であったが、私は「点線」という考え方もできるような気がする。 つまり、現在の EU のような状態である。EU がもともとはドイツとフランス間で戦争が起きないようにするために作られた欧州石炭鉄鋼共同体から発展したことを考えれば、日本と中国で尖閣付近の資源を共同管理し、そこには点線を引くことはよい解決策なのではないかと考える。
◇法学部政治コース 学部4年
現在でも海の国境線については(人が住んでいる陸と違って)一元的な線ではなく徐々に主権の強さが変わっていくような領域区分になっている。今回の中国による防空識別圏の設定は、裏を返せば空や海の領域についてはまだ国際的合意による線引き方法が固まっていないということであり、周 辺国による共同所有や地域機構による共同統治など、従来の主権国家体制より一歩進んだ国境のあり方を模索し合意形成を図るチャンスであると考えることもできるのではないだろうか。