複数の人が考えを持ち寄って話し合うと、一人では考え付かない新しい考えが生み出される可能性がある。笑いの多い会話に参加することで元気が出たり、新しい考えに触れて、それまで気づかなかったことに気づけたりすることもある。人と人との日常会話の輪に入り、人の賢さを引き出すロボットを実現する方法について、共に考える。
「学習科学」は、人がどのようにして賢くなり続けるものか、その詳細を一から研究し直そうという研究領域である。例えば、生徒が教室で話し合いながら自分で答えを作って行く授業を実践し、そこで起きる一人ひとりの生徒の発話を大量に分析してそこから「人が賢くなる」過程を明らかにする。この日の講座では、こういう学びの研究に遠隔操作型のロボットが大きな役割を果たすことをご紹介したい。
【大武先生より】
① 大武美保子.介護に役立つ共想法―認知症の予防と回復のための新しいコミュニケーション,中央法規出版,2012.
② 大武美保子.認知症から見る人間の知能と人工知能による支援,人工知能学会誌,Vol. 28, No.5, pp.726 - 733, 2013.
③ 大武美保子.認知症予防回復支援サービスの開発と忘却の科学―会話における思考の状態遷移モデルと会話相互作用量計測法の開発―. 人工知能学会論文誌, Vol. 25, No. 5, pp. 662 - 669, 2010.
④ 大武美保子.高齢者の認知活動を促進する会話支援ロボット,人工知能学会誌,Vol. 29, No.5, pp. In Press, 2014
【三宅先生より】
・放送大学印刷教材(教科書)『教育心理学概論』(三宅・三宅著)より3章「人が自然に学ぶ仕組み」、6章「対話で理解が深化する仕組み」、12章「知識を統合して新しい答えを作る」
・三宅なほみ、(1985)、「理解におけるインターラクションとは何か」、佐伯編『認知科学選書4 理解とは何か』pp.69-98. 東京大学出版会
・現在東京大学で取組んでいる「大学発教育支援コンソーシアム推進機構」の取組みについては現在まで4冊刊行した年度毎の活動報告書を参照して下さい
【大武先生より】
・参考文献の②と④
【三宅先生より】
・三宅なほみ、(2011)、「概念変化のための協調過程 ―教室で学習者同士が話し合うことの意味―」,心理学評論,54(3),pp.328-341.
◇ロボットによって人の能力を引き出すことを目的とした研究内容は、お二人それぞれの専門知識が見事に融合して実現しているものであり、とても興味深かった。ロボットという無機質な存在でも人の輪に入ることで、高齢者には笑いとコミュニケーションが生じていた。人の会話なかでは、相づちや笑い、尋ねる質問にも適切なタイミングがあり、それをロボットにさせることで、大いに会話を盛り上げることができるだけでなく、認知症高齢者の脳の活性化の可能性も示唆された。これは今後ますます認知症高齢者が増加する日本において、一つの大きな希望である。
◇講義題目を見たときに、今回の範囲は(ロボットという工学的なテーマであることもあり)専門的な内容となることを想像していました。しかし、予習資料、講義を通して印象的だったのは、「技術的・機械的」な論理で動くロボットを開発するために、会話や学習の方法などといった非常に「人間的」なテーマが重要になっている、ということです。ロボットを人の輪に入れるためには、「人間」そのものに対する理解が必要であるということは興味深いと思います。
◇ロボットとのコミュニケーションの最先端を知ることができた。子供たちの反応で興味深かったのは、困ったときにロボットに質問するなど、ロボットを頼りがいのある存在と見なしているような場面があったこと。また一方で、ロボットならではの会話のズレに思わず笑ってしまったり、「聞こえてるのかな?」と気にしたりするなど、ロボットだから人より劣っている部分もあることを一種の前提として見ているような場面もあったことだ。他の子供たちに発する言葉よりも明確で大きく話しかけるなど、子供ならではのロボットに対する配慮も散見された。 ロボットは基本的には人間の生活を便利にするものだろう。しかしロボットと共生する未来があるとすれば、人間はロボットに頼ってばかりではいられない。ロボットへのサポートや配慮があってこそ、ロボットから最大限の利益が得られるのだろう。
◇ロボットが人の学習や認知症対策などに役立つ可能性があるということそれ自体にも驚いたが、それ以上に実験映像で見るロボットが違和感なく人間の輪に溶け込んでいる姿に感動さえ覚えた。「ロボット=機械=無機質、冷たい」という印象を抱いていたが、人が思いを込めて作り、人が温かい気持ちで向き合えば、想像以上にロボットは私たちと共に生きていけるのかもしれないと感じた。