西村 陽一

(朝日新聞社常務取締役編集担当、ザ・ハフィントン・ポスト・ジャパン株式会社代表取締役)

「新聞の過去・現在・未来」



予習文献

  1. ジェフ・ジャービス『デジタル・ジャーナリズムは稼げるか――メディアの未来戦略』東洋経済新報社,2016年より第2章「コンテンツ対サービス」と第6章「ジャーナリストの役割」.
  2. 竹下隆一郎「埋もれた声を発信し、『大衆社会』に幕 ブロガー1千人超のハフポストの狙い」『月刊 Journalism』朝日新聞社 2016年8月号.
  3. 奥山俊宏「ニュース判断や取材の実務に違いも・・・ICIJ提携、パナマ文書報道の経緯」『月刊 Journalism』朝日新聞社 2016年8月号. 
  4. 3の記事の関連として、ICIJのマー・カブラによるジャーナリズムサイト「ソース」のインタビュー記事 The People and Tech Behind the Panama Papers (Source) https://source.opennews.org/en-US/articles/people-and-tech-behind-panama-papers/
  5. ダン・ギルモア『あなたがメディア ソーシャル新時代の情報術』朝日新聞出版 より第0章「大震災、ウィキリークス、ビンラディンの死が示したメディアの未来」
  6. 「不可避な未来」と選び取る現実:ケヴィン・ケリー氏の描く2050年」(ハフィントンポスト)→下記のハフィントンポストブログからケリー氏の講演会の動画を見ることができます。動画の中のケリー氏のプレゼン部分を見てください。http://www.huffingtonpost.jp/kazuhiro-taira/inevitable-future_b_11174628.html

 

講義後情報コーナー 履修者のレスポンス抜粋

本講義を通じ、オールド・メディアすなわちテレビや新聞といった媒体について、別の視点から捉えなおすことができたような気がします。西村先生の講義では、新聞において導入されようとしている最先端の技術を知ることができ、まさに驚きの連続でした。それまでの自分の考えでは、いまだに記者が足を使って情報を集めているというイメージだったので、最先端のメディアのあり方はとても興味深いものでした。また丹羽先生の授業においても、テレビのアーカイブが蓄積し、テレビ研究が活発化しているというお話を聞き、大変興味を惹かれました。自分の生活に身近な、いわゆる通俗的な存在が研究を支えられるまでの歴史を積み重ねてきたことそれ自体が、学問の大きな流れを見ているようでとても感慨深かったです。ネットというメディアが大きな役割を占めている現代においても、なおオールド・メディアの存在そのものの力強さというものを感じました。(法)

 

西村先生のおっしゃった話のなかで最も興味深かったのは最近はFake newsが拡散されている、ということだ。SNSによって刺激的な話題が多くのユーザーに、裏付けがとられることなく広がっていく。これによって炎上がおこり無実の人が傷つけられるケースも増えてきた。こうしたニュースを検証するメディアが必要に思う。また今年はEU離脱、ドナルドトランプの勝利といった大手メディアが民意から外れたことを報道することもあった。これはメディアの中心がオールドメディアからインターネットに移ったということだろうか。あとVRでニュースが体験できるというのは非常に面白そうだと思った。自分は人ごみが苦手なので渋谷のハロウィーンだとか、サッカー観戦などをVRで体験したい。また西村先生は解決方法を提示するソリューションメディアのお話をしていたが、自分は大きな影響力をもつメディアは意志を持つべきではないと思う。(工)

 

新聞テレビからVRの流れやキュレーションメディアの人気ように、自分の経験重視、自分の好みベースの情報収集になることで、自分に不都合な意見を聞かない風潮ができてくることが問題になっている。その中で、「メディアは本来つなぐ・媒介するものであったのにもかかわらず、分断野本になっているというジレンマ」という言葉が印象に残り、現状を的確に言い得ていると思った。AIなどの台頭により、新聞を書く仕事の外部委託が容易になって、人間の仕事が取って代わられる危険性が叫ばれているけれど、仕事の中でもコモディティ化しているものをAIにさせて、VIPへのインタビューなど人間にしかできない仕事ができる記者を何人持てるかに新聞の価値がかかってくるという言葉を聞いて、他の産業にも当てはまるのではないかと思った。メディアが抱えているアーカイブの価値というものには日常で接することはないため新鮮に思った。(経済)

 

丹羽 美之

(情報学環 社会学・メディア研究)

「アーカイブが変えるテレビの未来」


予習文献

  1. 丹羽美之「アーカイブが変えるテレビ研究の未来」『マスコミュニケーション研究』第75号、51-66頁、2009年
  2. 長谷正人『敗者たちの想像力 脚本家 山田太一』岩波書店、2012年

講義後情報コーナー 履修者のレスポンス抜粋

テレビなどのメディアは人々を分断するものではなく、人々をつなげるものであるべきというところに大変共感しました。私も小さい頃からテレビっ子でして、特にドラマが大好きでした。しかし最近はなかなか周りもドラマを見なくて、共通の話題が少なくなったような気がします。 新聞などもそうですが、昔からこれらの情報やコンテンツを届け続ける人々が変わらずにいて、ですが近年娯楽や消費できるものが大量に増えたことで読者・視聴者がだんだん分散されていきました。キュレーションの話も少し出ましたが、人々は自分の関心のあるものしか接することがなくなって、いつの間にか小さな輪に閉じこもってしまうのではないかと危惧しています。メディアが大きな変革を迎えている今ですが、同時にこの先には必ず着地点が見つかるとポジティブにも思っています。(文)

 

朝日新聞社の西村氏の講演は、興味深かった。情報環境が激変する中で、新聞社としての現在取り組んでいることを講演して下さった。特に、ARなどを用いて未来に対応していくつもりだ、というお話があり、実際に機器を用いた実演もあり、目指すべき未来の姿の一端を示して下さった。ただ、一方で、それが新聞社としての将来の柱になるのかとういう疑問は個人的にあった。今まさに模索中なのだという状況が感じられた。丹羽氏の講演は、大画面で見たドラマがとても印象深かった。「現代にも通じる良さがある」と言う説明があったが、確かに、テーマは分かりやすいながらも、何か今でも心打つものがあると感じた。現在、社会が不寛容になっており、そういう時代の中で、ますます、この種の映像の価値がある、という考えには、とても納得がいった。効率を求める社会では、どうしても排除されがちなので、この種の機会を通して、日々考えることが大事だと思った。(文)