・筆保弘徳、芳村圭(編著),『天気と気象についてわかっていることいないこと』,ベレ出版,2013
・佐藤 雄亮・芳村 圭・金 炯俊・沖 大幹、旱魃の将来変化に対する水資源管理の効果に関する研究、土木学会論文集B1(水工学), 71(4),I_391-I_396, 2015.
・Climate Change 2014: Synthesis Report. IPCC, Geneva, Switzerland, 151 pp
◆人間の生活と切り離すことのできない「水」を「居場所」と関係づけて考えることはある意味自然なことだが、自分の中でこれまで考えたことのない新鮮な課題でもあった。水の循環は目で見ることができず、一つの変化がどのような場所にどのような作用を及ぼすのかを考えることだけで、多くの専門的な知識と時間を要することが講義を通してよくわかった。グループワークでも上がった話題だが、多くの水問題について問題を起こしている当事者が勝ち逃げできる構造、また多くの人にとって自分の行動の責任が見えにくい構造が、問題の解決をより難しくしていると感じた。どのように情報を発信することで人々が危機感を持って行動を起こしていくことができるのか、現状は何が問題なのか、深く検討していかなければならないと思った。(法学部 4年)
◆環境問題をめぐるデータなどはいつも衝撃的なものばかりである。一方で、これらの影響そのものを問題視する必要があるのか、疑問である。なぜなら水そのものや環境そのものには人格は存在せず、「痛い」や「苦しい」という感情を持つわけでもないからである。その変化を通じた、生態系への影響や人間の未来世代への悪影響が、私たちが環境問題に取り組む際の価値であろう。その視点から考えると、現在の環境保護運動が、「地球に優しく」「美しい自然の喪失」などを標榜していることは、ピントがずれているように感じられる。環境保護運動をすべきでないというわけではないが、それらをめぐる運動の中の価値の置き方に混乱が見られると考えるのである。その意味で、今回の講義の最後に出てきた、「人間の居場所」から思考を始め、「未経験のフェーズにいつ移行するのか」などという問い立てからデータを出すことは極めて有意義だと感じられた。(医学部 3年)
◆水の居場所は長期的に変化していくということに難しさを感じた。長期的に変化するからこそ、水の居場所が変化し人間の居場所が減少する事の危険性や、対策を行った場合の効果等を知ることができず、対策がされにくい。また、水の居場所が長期的に変化することにより、対策を行う世代と利益を得る世代がずれることも、対策を行われにくくする一因となっている。しかし、実際の危険性や対策の効果が分からなくても、対策を行いリスクを減らすことは重要であると感じる。対策を行う際には現在と将来の利益の対立が問題となるが、将来のことも含めた問題意識が現在の社会に醸成され、社会基盤やシステムにも長期的な視点が組み込まれるようになると良いと思う。特に将来の水の居場所に関する意識の醸成は難しいことだと思うが、諦めずに、予測技術や予測の伝え方、法制度、教育など様々な面からアプローチしていくことが大切だと感じる。(工学部 4年)
◆これまでの経験や予測が通用しない未来が迫っている中で、科学技術の発展に期待するだけではなく、人類がいかに水と付き合ってきたのかを知っている人文学の見地も求められていると感じた。一方で、スケールが地球規模とあまりに大きく、自分ひとりの行動で何かを変えられるとは思えず、当事者意識を持てなかった。身近な誰かの居場所を考えるのであれば、一人ひとりの心がけで今すぐに変えられることに比べると、水問題への動機付けは難しい。また、この問題の特徴として、今存在している居場所が失われないようにするという、いわば「現状維持」の意味合いが強いことがあげられる。他の回で志向していた、居場所を作ったり、増やすことに比べれば、後ろ向きとも捉えられかねないところに、環境問題の難しさがある。(文学部 3年)
◆今回の講義は物理的な文脈で人間集団の居場所を考えるという特性から、ここまでの講義とは毛色の非常に違うものになった。特に「居場所」に存在する個人が利得を最大化するような経済学的な消費主体へと捨象され、居場所を「作る」者から居場所を「侵害しかねない」者へと大きく転換した印象が強い。個人的には前回までの講義では「居場所」を相互に貢献し、承認し合えるような他者との関係性のあり方として捉えていた。しかし今回のテーマを考える中でこの見方との共通項を見出だすことはできず、同様の視点で「居場所」のあり方を探ってきた受講生間の話し合いでも今回のテーマで主体のあり方が大きく変容していたことを感じた。ここに、内発的な居場所の感覚を全球に対して持つといういわゆる「宇宙船地球号」の感覚を共有することの難しさを感じた。(農学生命科学研究科 修士1年)
◆最後に先生の仰られた合意について考えた。私の班では、水資源管理が現在の人類の幸せを伴った生存のためには必須であるという結論に至ったが、現状では勝ち逃げできるゲームであり、囚人のジレンマ的に水資源管理のための行動が起こりづらいという問題を発見した。その解決のため、若者の政治参加を促すことや罰則の強化を提案したが、それらの法制度整備のための合意が最も困難であるというお話を受けた。合意の困難を乗り越えるためには、現状の意思決定の構造自体に原因がある。勝ち逃げできる高齢者と課題と向き合い続けなければいけない若者を同席させ、合意を図ろうとしてもそれは不可能である。その不可能性を超越するためにも現状の意思決定の方法は変えなければならない。一案としては非常にトップダウン的なアプローチを採る事も一案である。国際機関や国際会議の決定をある種強制することでしか解決できない問題もあるかもしれない。(工学系研究科 修士2年)