岡 良隆

(理学系研究科 生物科学専攻)

「動物のオスとメスのつながりを生む脳のしくみ」


予習文献

・岡良隆「第8章動物の神経細胞のかたちとはたらき」二河 成男・東 正剛編『新訂 動物の科学』放送大学教育振興会, 2015, pp.119-139.

・岡良隆「第9章 生体情報を伝える神経系と内分泌系」二河 成男・東 正剛編『新訂 動物の科学』放送大学教育振興会, 2015, pp.140-157.

・岡良隆「第10章 行動と脳における性差と性行動の神経機構」『基礎から学ぶ神経生物学』オーム社,2012

講義後情報コーナー

履修者のレスポンス抜粋

 高校までの生物の授業を思い出しながらお話を伺っていた。高校時代は一つ一つの仕組みをひたすら頭に詰め込んでいくような勉強をしていたが、先生にアカデミックな仮説とその検証という枠組みでご説明をいただいたことで、生物の仕組みの高度さ、凄さを実感することができた。
 そして、純粋な仕組みの凄さはもちろん、性行動という、外界への反応としてではなく、生物に始めから備わっている本能をベースにした行動が、実際にどのように行動として表出するのか、その本能と行動の間にあるものを解明していくプロセスが、非常に刺激的だった。一方的な中枢からの命令による影響関係ではなく、いわば中枢と生殖器の相互の影響関係によって性行動が支配されているというのは、フィードバック機能が働いているといってしまえばそれまでであるが、非常に興味深く感じた。(法学部3年)

 第9回のテーマは、脊椎動物のオスとメスのつながりが生まれる背後にある脳内の神経機構だった。
 繁殖を成功させ子孫を残すためには、生殖と性行動が同期する必要がある。しかしこれは自明なことではない。もし生殖と性行動が独立に脳内で制御されていれば、外部環境の変化によって生殖だけ・性行動だけが引き起こされる可能性がある。岡先生らの研究などから、脳内に神経分泌細胞と呼ばれるホルモンを分泌する能力を持ったニューロンが存在して、その働きで生殖と性行動が同調することがわかってきたそうだ。神経分泌細胞が、ホルモンで制御される生殖と電気信号で制御される性行動を一括して制御する。
 生物の振舞がどう制御されているか、生における脳の役割が何であるかを科学的に明らかにすることには大きな意味があるだろう。その一方で、例えば第七回の一ノ瀬先生の動物倫理の議論の中でメダカを用いた実験がどこまで許容されるのか、得られた知見をどこまで人間に還元したいのか、といった複雑な問題を示唆するようにも感じた。(工学部3年)

 本日の講義は非常に理系寄りなものであったため、文系の私は冒頭から理解に苦しむこととなった。しかし、先生のわかりやすい説明と聞き取りやすい口調、また受験生時代に勉強した生物の知識を徐々に思い出すことにより、最終的に理解を深めることができたと感じている。脳からの制御指令に関わる負のフィードバックなども思い出し、懐かしい気持ちになった。
 講義については、先生が日頃行なっている研究についてのものであったため、どちらかというと知識そのものというよりは理系の最先端の研究について、またそうした研究が進んだ将来の世界について考察を深めることとなった。理系の研究は仮説構築と実験、反省といったPDCAの繰り返しであると耳にしたことがある。本日のスライドにあったように、現段階では繁殖期の性行動にもまだまだ謎があるということだ。これから研究が進み明らかになったか暁には生行動そのものをよりコントロールすることが可能になるだろう。理系の科学者達の研究に対する姿勢から私自身も学び、自身のPDCAを回していかなければならないと感じた。(文学部4年)

 自分は生物系の知識がほとんどない中での受講だったが、生物の一つ一つの生理行動の複雑さを感じることができた。なぜこのような複雑な仕組みをとるように生物が進化していったのかグループの中でも話し合ったが、自分は一つの器官がうまく働くなった時でもホルモンを問題なく排出するためではないかと思った。多様な器官がホルモンの排出に関わることで、一つの器官のホルモン排出に対する影響を減らすことができるためだ。この仕組みについて考えてみると、国会などの意思決定機関などでも同じ仕組みを採用していると気づいた。実際国会では大切な決議に関しては多様なアクターが関わるような仕組みにすることで、判断ミスが起きないようにしている。どのようにして現在の意思決定機関の仕組みが成立したかの経緯はあまり知らないが、生物の体に使われている仕組みが社会制度の設計に役に立つのではないかと考えるいい機会となった。(文学部3年)

 まず、生殖を「つながり」という言葉で表すのが素敵だと思った。「つながり」というと物理的な連結もしくは精神的な連帯を指すことが多いが、生物の生殖は精神的な連帯を前提に行為として物理的な連結を伴う概念だ。「つながり」という言葉を多面的に捉えられる良い切り口だと思う。
 講義では生物のメカニズムの不思議を解明していく様がその手法と合わせて語られ、ド文系の私としては尊敬の念でいっぱいになりすぎて呆然といった感じだった。そもそも生殖行為と性行動を切り離して捉えることがなかなかないので、その2つが同期するのがなぜなのかという疑問を思いついたことすらない。やはり文系だと人間中心の考え方になりすぎているんだなあと実感した。生物を繁殖状態にする最初のきっかけは光量や気温など外界の変化ということだったが、人間も、社会的な要因によって行動することも多いけれど、月経など自然の周期に合わせて行動が変化する面は大きいと思った(けっきょく人間の話とは結びつけてしまった……)。(文学部3年)

 理系的な内容で周囲が少し混乱していたが私は理2出身であったためそこまで抵抗なく受け入れられた。前々から疑問に思っていた、ホルモンの指令とそのフィードバックの流れの中で、どこからホルモンを出せという指令が出ているのかという、卵が先か鶏が先かのようなことについて回答していただいた。その上で自分で考えたのは、このような構造になっているのはどこが始点になっても良いようになっているのかなと思った。最初の始点を決定できない、もしくはしないことで大事な回路を断つことなく流れに乗ってしさえしまえば、一連の流れが軌道に乗るようになっているのだろう。
 また、話の中で浮かんだ疑問がもう一つあり、性行動の順序が無茶苦茶にならないのはどのようにフィードバックが為されているのか気になった。順序を認識しているからこそ放精までたどり着けるのであって突然放精をしてもうまくいかないだろう。この認識と実際の脳の神経の関係を一つ一つ見つけ出すのは相当な苦労とひらめきがなければ成し遂げられないと感じた。(教育学部3年)

 数物系の自分にとって動物の生殖についての内容はわからないことが多くも新鮮で面白かった。講義ではメダカをモデルとして説明されていたが人間でも同じことが言えるのか気になった。人と人とのつながりを考えるとき、生物学的に考えることは原理的で面白そうであるが実際説明つくのだろうか?と思うことはある。素人なのでわからないがおそらく、脳科学は生物学の一種と考えることができるだろう。人間のさまざまな行動は心理学で説明されることが多々ある。そこで心理学は脳科学で説明がつくのだろうか。テレビではこの二つは仲が悪いなどというのを見たことがある。逆にこんなことも考えた。よく動物の行動は動物学ないしは生物学で説明される。ならば動物に心理は存在しないのだろうか。動物のきもちが行動からわかるなどという話はよくあるがそれは心理学と言えるのだろうか?などと考えさせられる講義でした。(理学系研究科修士1年)